建設業の人手不足を調べると、「技能者不足」と「技術者不足」という2種類の言葉が出てきます。名前は似ていますが、業界への影響・関係する企業の層・対応するDX領域がまったく異なります。
この2つを区別できると、建設業の構造変化をより正確に読めるようになります。
それでは詳しく見ていきましょう。
- 技能者と技術者の役割・定義の違い(比較表)
- それぞれの不足が業界に与える影響の違い
- 2024年12月の法改正が技術者配置に与えた変化
- 2種類の不足に対応するDX需要の違い
技能者と技術者、何が違うのか
建設技能者(ぎのうしゃ)とは、実際に施工の作業を行う職人のことです。大工・鉄筋工・左官・電気工事士・配管工などが該当し、現場で手を動かす職人です。建設業法では「技能労働者」と定義されています。
建設技術者(ぎじゅつしゃ)とは、施工の管理・設計・測量などを担う専門職のことです。施工管理技士・建築士・土木施工管理技士などの資格を持つ人材が該当し、工事現場を管理する立場です。
以下に2つの違いをまとめます。
| 項目 | 技能者(技能労働者) | 技術者 |
|---|---|---|
| 役割 | 施工の実作業 | 施工の管理・設計・測量 |
| 具体的な職種 | 大工・鉄筋工・左官・電気工事士・配管工など | 施工管理技士・建築士・土木施工管理技士など |
| 法的配置義務 | なし | あり(主任技術者・監理技術者の配置が義務) |
| 主な雇用先 | 専門工事会社(サブコン)・職人個人 | ゼネコン・サブコン・建設コンサルタント |
| 不足したときの影響 | 施工量の絶対的な上限が下がる | 工事の受注・着工そのものができなくなる |
技能者不足の実態
建設技能者は1997年のピーク時464万人から、直近では約303万人まで減少しました(出所:国土交通省)。約30年間で160万人以上が業界を去った計算です。
(1997年)
ピーク比▲35%
29歳以下の割合
年齢構成も偏っています。29歳以下は建設業就業者全体の約12%にとどまる一方、55歳以上は約36%を占めています(出所:国土交通省)。
技能者の仕事は現場経験で覚える部分が大きく、ベテランの大量離職が続くと、技能が継承されなくなるリスクがあります。
建設業の就業者に占める技術者・技能者別の推移は、国土交通省の参考資料(下図)でも確認できます。
技能者が減ると、施工量の絶対的な上限が下がります。受注残がどれだけ積み上がっても、現場で手を動かす職人がいなければ工事は進まないのです。
技術者不足は受注できる工事数の上限を決める
技術者の不足は、技能者とは性質が異なります。
建設業法第26条では、一定規模以上の工事について「主任技術者」または「監理技術者」の配置を義務付けています。技術者がいなければ、その工事の受注・着工が法律上できません。
技術職の人数は2013年頃を底に増加に転じ、直近は30万人台後半で推移しています(出所:国土交通省)。数字だけ見ると不足が解消されているように映ります。しかし問題の本質は「頭数」ではなく「配置の制約」にあります。
1人の技術者が同時に担当できる工事の数には法律上の制限があります。工事の受注が増えても、配置できる技術者の数が、受注量の上限を決める構造になっています。技術者が足りなければ、採算が合う工事でも断らざるを得ない局面が生まれます。
2024年12月、配置ルールが一部緩和された
2024年12月13日の建設業法改正施行により、ICTを活用して工事現場の状況を確認できる場合、請負代金1億円未満の工事について監理技術者・主任技術者の兼務が認められるようになりました(出所:国土交通省)。
「1人の技術者が複数の工事を受け持てるようにすることで、技術者不足による受注制約を緩和する」というのが改正の趣旨です。
これは施工管理DX・遠隔臨場ツールの導入が「単なる業務効率化」から「法的要件を満たすための条件整備」に変わったことを意味します。
建設業の2024年問題は業界の何を変えたのか|規制・採算・DX加速の実態技能者不足と技術者不足で、対応するDX需要が異なる
2種類の不足は、対応するDX・省人化の領域が異なります。投資テーマとして建設業を見るとき、この違いを把握しておくと需要が出る企業層の見当がつきやすくなります。
技能者不足への対応:施工の自動化・機械化
手を動かす職人が足りないなら、機械に代替させるしかありません。ICT建機(自動制御・ガイダンス付き重機)・建設ロボット・3次元測量・ドローン測量が、技能者不足への直接的な対応策です。
技能者を多く必要とする土工・鉄筋・舗装などの専門工事から、自動化・機械化が進む方向にあります。採用によって人員を確保できない以上、専門工事会社は機械・設備への投資でしか生産能力を維持できないからです。設備投資に踏み切る動機は人手不足が深刻になるほど強まります。
技術者不足への対応:管理業務のDX
施工管理の業務効率を上げることで、1人の技術者がより多くの工事を担当できる状態を目指します。施工管理アプリ・電子小黒板・遠隔臨場・BIM/CIMが対応する領域です。
2024年12月の法改正で「ICT活用による技術者の兼務」が条件付きで認められたことで、施工管理DX・遠隔臨場ツールへの需要は「業務効率化」から「受注能力を広げるための条件整備」に変わったと見ることができます。
まとめ
- 技能者は現場で手を動かす職人、技術者は施工の管理・設計を担う専門職で、役割が根本的に異なる。
- 建設技能者は1997年の464万人から約303万人に減少し、施工量の絶対的な上限が下がり続けている。
- 技術者には建設業法上の配置義務があり、数が足りないと工事の受注・着工そのものができなくなる。
- 2024年12月の法改正でICT活用による技術者の兼務が一定条件で認められ、施工管理DXが受注能力拡大の条件になった。
- 技能者不足の対応はICT建機・建設ロボット、技術者不足の対応は施工管理DX・遠隔臨場と、需要が出る企業層が分かれる。