建設投資の需要は高い水準が続いています。しかし、建築工事売上高上位71社を対象にした調査では、約7割が「2026年度に大型工事を新規受注できない」と回答しました(出所:日本経済新聞、2025年2月。45社回答)。
需要があっても受注を断らざるを得ない——この逆説が、人手不足が受注に与えている影響の核心です。
それでは詳しく見ていきましょう。
- 受注余力の縮小:なぜ需要があっても受注を断るのか
- 人手不足が受注に影響する3つのルート
- 「選別受注」の意味と採算・利益率への影響
- 投資家が決算で確認すべき受注高・受注残・利益率の論点
受注余力が縮んでいる
受注余力とは、「現在の体制でどれだけ追加の工事を受けられるか」を指します。受注残(まだ完成していない工事の積み上がり)が高水準であるほど、それを消化するための人員・技術者は手いっぱいになります。
受注残は国策工事・民間投資の積み上がりから過去最高水準近くで推移しています。しかし工事を増やしても施工できる人手には上限があります。受注残がいくら積み上がっても、施工できる量は人手の上限を超えられないのです。
同調査では、約40%が「既存の契約済み工事でも工期が遅れる可能性がある」と回答しています(出所:日本経済新聞、2025年2月)。新規どころか、抱えている工事の完了すら危うい状態になっています。
建設業の人手不足はなぜ解消されないのか|構造的な背景と投資テーマ人手不足が受注に影響する3つのルート
「人手が足りない」という事実が、受注に影響する経路は1つではありません。技能者・技術者・工期の3つのルートが重なることで、受注余力が削られています。
①技能者不足:施工量の物理的な上限
現場で手を動かす職人(技能者)が不足すると、同時に進められる工事の量に物理的な上限が生まれます。職人の絶対数が減っているため、新規工事を受注しても着工できる状態になるまでの待機時間が長くなります。
②技術者の配置制約:法的に受注できない上限
建設業法では、一定規模以上の工事に主任技術者または監理技術者の配置が義務付けられています。技術者1人が同時に担当できる工事数には制限があるため、技術者を配置できる工事数が、そのまま受注できる工事数の上限になります。
③工期の長期化:回転率の低下
2024年問題(時間外労働の上限規制)以降、1工事あたりの工期が長くなっています。工期が延びると、既存工事を完了するまでに次の工事を受けられない期間が長くなります。工事の「回転率」が下がることで、年間の受注可能量が減少します。
この3つが同時に作用すると、「受注残が積み上がりながら、新規工事を断らざるを得ない」という状態が生まれます。
建設業の技能者不足と技術者不足はどう違うのか|役割・法的義務・DX需要の違い「選別受注」という経営判断が広がっている
受注余力が限られる中で、採算の合わない工事を断ることを選別受注と呼びます。建設業では近年、人件費・資材費が上昇し続けていて、工事を請け負っても価格に転嫁しきれないケースが増えています。
コストが上がっても工事価格に転嫁できない状況が続いた結果、採算が悪化して決算に直撃した事例も出ています。受注余力に限りがある中でも採算の悪い案件を引き受け続けると、完成工事高が増えるほど損失が膨らむ構造になります。
清水建設は2023年度に501億円の営業赤字を計上しました。上場以来初の赤字でした(出所:日経xTECH)。受注時点から採算が厳しかった大型工事が完成工事高に計上されたことが主因とされています。
選別受注は一見「売上が減る」ように映りますが、採算の取れない工事を断ることで利益率を守る合理的な経営判断です。人手が限られているからこそ、どの工事を受けるかの優先順位が経営の核心になっています。
コストアップの価格転嫁が難しかった構造的背景と、これを改善するための建設業法改正の概要は、国土交通省の参考資料(下図)でも確認できます。
決算で確認したい3つの論点
人手不足が受注に与える影響は、建設会社の決算に複数の形で現れます。以下の3点をセットで確認すると、会社の体質変化をより正確に読めます。
①受注高の水準と変化方向
受注高(当期に新たに受注した工事の合計額)が減っているとき、その理由は2種類あります。「需要が減って取れなかった」のか、「受注余力が足りず断った」のかで意味がまったく異なります。
同時期の市場全体の建設投資動向と照らし合わせることで、どちらかを判断できます。
②受注残高と完成工事高の比率
完成工事高は「当期に完成・引き渡しが終わった工事の売上」、受注残高は「受注したが未完成の工事の積み上がり」です。
受注残が積み上がりながら完成工事高が伸びていない場合は、消化できていないサインです。人手不足による工期延長の影響が出ている可能性があります。
③完成工事総利益率の動向
選別受注が進んでいる企業では、採算の改善が利益率に現れてきます。ただし、工期延長による固定費の増加や資材費の上昇で相殺されるケースも多いです。受注高・受注残の変化と利益率の改善がセットで確認できると、「量より質に転換しているか」を読みやすくなります。
まとめ
- 建設投資の需要は高い水準が続いているが、人手不足により大型工事を断る建設会社が増えている。
- 受注余力の縮小には、技能者不足・技術者配置制約・工期長期化の3つが重なっている。
- コストアップを工事価格に転嫁できない企業では採算悪化が続き、大手でも赤字計上事例が出ている。
- 採算の合わない工事を断る「選別受注」は、限られた人手で利益率を守るための経営判断として広がっている。
- 決算では受注高の水準だけでなく、受注残の変化と完成工事総利益率の改善がセットで確認できると体質変化を読みやすい。