建設業の決算書を読もうとすると、「受注高」「受注残」「完成工事高」という言葉が並んで出てきます。製造業や小売業には出てこない指標で、最初は混乱しやすい部分です。
この記事では、3つの指標の意味と違い、投資家が注目する理由を整理します。個別銘柄の購入判断ではなく、業界理解のための基礎知識として読んでいただければと思います。
受注高・受注残・完成工事高、3つの指標の関係
まず結論を一言でいえば、こうなります。
- 受注高:その期間に新たに契約した工事の合計金額
- 受注残:まだ完成していない工事の残高(受注の積み上がり)
- 完成工事高:その期間に完成・引き渡した工事の合計金額(売上に相当)
この3つは「受注する→工事が積み上がる→完成して売上になる」という建設業の工事サイクルを表しています。
それぞれの意味を整理する
受注高とは
受注高は、その決算期間に新たに受注した工事の総額です。「この期間にいくらの工事を取ってきたか」という数字で、営業力や受注環境を測る指標になります。
受注高が増えていれば、将来の売上につながる工事が積み上がっていることを意味します。
受注残とは
受注残は、受注済みだがまだ完成・引き渡しをしていない工事の残高合計です。建設業特有の指標で、「受注残高」「手持ち工事高」とも呼ばれます。
英語では Backlog(バックログ)と表記されます。
受注残が厚いほど、今後の売上が見えやすくなります。期末時点の受注残は、翌期以降の完成工事高の先行指標として扱われます。
完成工事高とは
完成工事高は、その期間に完成・引き渡しをした工事の合計金額です。一般的な業種の「売上高」に相当します。
建設業では工事が完成して引き渡した時点で売上を計上するため、受注した時点ではなく完成時点が基準になります。
受注残と発注残の違い
「受注残」と「発注残」は、同じ取引を見る立場が違います。受注残は受注した側(ゼネコン・施工会社)から見た残高で、「まだ完成していない受注工事の積み上がり」です。
一方、発注残は発注した側(施主・元請け)から見た残高で、「まだ納品・完了されていない発注の残り」を指します。建設業の決算書で登場するのは受注残(施工会社側の視点)です。
3つの指標の流れ
3つの関係を式で表すとこうなります。
期末受注残 = 期首受注残 + 受注高 − 完成工事高
たとえば鹿島建設の2025年3月期(単体)では、受注高1兆8,311億円(建設事業計1兆7,735億円+開発事業等575億円)を獲得し、完成工事高1兆5,600億円を計上した結果、期末の受注残高は2兆5,509億円(手持ち工事月数19.6ヵ月)となりました。
受注した工事量が完成した工事量を上回った分、受注残が積み上がっています。
投資家が受注残を確認する理由
建設業の売上は、受注してから完成工事高に計上されるまで、数ヶ月から数年かかります。大型の土木工事や再開発案件では、工期が3〜5年に及ぶこともあります。
そのため、今期の完成工事高だけを見ていても、業績の先行きは分かりません。
受注残は、将来の売上の「在庫」に相当します。受注残が積み上がっているほど、中期的な売上見通しが立てやすくなります。
業界を見るうえで確認したいポイントとしては、以下が挙げられます。
- 受注残が増えているか、減っているか
- 受注残が完成工事高の何年分に相当するか
- 受注高が前年比でどう変化しているか
- 受注の内訳が民間中心か、公共中心か
決算書のどこで確認するか
受注残は、有価証券報告書や決算短信の「受注及び販売の実績」セクションに記載されています。四半期報告書でも確認できます。
受注高・受注残・完成工事高が表形式でまとめられているため、期ごとの推移を追いやすい構造になっています。国土交通省が公表する「建設工事受注動態統計調査」では、業界全体の受注動向も確認できます。
受注残が多ければ安心とは限らない
受注残が増えていても、そのまま利益につながるとは限りません。確認しておきたい論点がいくつかあります。
採算の問題
工事単価が低い受注が積み上がっている場合、完成工事高は増えても利益率が下がることがあります。受注残の量だけでなく、採算性も確認が必要です。
資材価格・人件費の変動
受注した時点の価格と、実際に施工する時点のコストが変わることがあります。インフレ局面では、固定価格で受注していた工事が採算割れになるリスクがあります。
価格転嫁条項(スライド条項・単品スライド条項)の有無は重要な確認点です。
工期の遅延
人手不足や資材調達の遅れにより、工期が延びることがあります。完成工事高の計上が遅れると、受注残が消化されずに積み上がったままになります。
売上の先送りを意味するため、受注残の増加が必ずしもポジティブとは言えません。
受注残がマイナスになるケース
受注残は理論上マイナスにはなりません。ただし、受注のキャンセルや工事規模の大幅な縮小が発生すると、計上済みの受注残が修正されることがあります。
受注残が前期比で急減している場合、こうした修正・取り消しが含まれていないか確認したいポイントです。
実際の短信・IR資料・統計資料で見ると
ゼネコンの決算短信や有価証券報告書には、「受注及び販売の実績」という表が必ず掲載されています。ここに受注高・完成工事高・受注残高の3つが並んで示されており、受注高と受注残の違いをそのまま確認できます。
「受注残高 ÷ 完成工事高」を計算すると、完成工事高の何年分の手持ち工事があるかが分かります。この値が高いほど将来の売上見通しが安定しており、低下傾向にあれば次期以降の完成工事高の鈍化を示すシグナルになります。
各社の決算短信で確認し、前期比・同業他社比で見ることが重要です。
また、国土交通省「建設工事受注動態統計調査」では、全国の建設業者の受注高を月次・工事種別に公表しています。マクロの受注動向とゼネコン個社の受注残を組み合わせることで、業界全体の需給感をより立体的に把握できます。
まとめ
建設業の決算を読む際は、完成工事高(売上)だけでなく、受注高と受注残をセットで確認することが基本です。
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| 受注高 | その期の営業成果。新たに契約した工事の合計。 |
| 受注残 | 将来の売上の先行指標。未完成工事の残高。 |
| 完成工事高 | 今期の売上。完成・引き渡しした工事の合計。 |
「受注残高 ÷ 完成工事高」を見ると、何年分の工事手持ちがあるかが分かります。業界全体の景況感を確認する際にも参照できる視点です。