ゼネコンの決算書には「受注高」「完成工事高(売上)」「受注残高」という3つの数字が登場します。これら3つが同じタイミングで動かないのは、建設工事が「受注→施工→完成・引き渡し」という時間軸のあるプロセスを経るからです。

この記事では、建設工事が受注から引き渡しまでどのように進むかを各フェーズで整理し、それぞれが売上計上・受注残・採算にどう影響するかを投資家向けに解説します。個別銘柄の購入判断ではなく、建設業の基本サイクルを理解するための整理です。

それでは詳しく見ていきましょう。

この記事でわかること
  • 受注高・完成工事高・受注残高という3つの数字の関係
  • 受注・着工・施工・竣工・引き渡しの各フェーズの中身
  • 各フェーズが売上計上・受注残・採算にどう影響するか
  • 建設業の基本サイクルを決算で読むときの前提

建設工事の全体フロー

建設工事は大きく「受注前段階」「受注・契約」「設計・施工準備」「施工」「完成・引き渡し」「アフター」の6つのフェーズで構成されます。

フェーズ主な内容財務への影響
① 営業・積算発注者との折衝、設計図の入手、工事費の積算(見積)、入札・提案まだ費用は発生しない(営業費用)
② 受注・契約落札・交渉の成立→工事請負契約の締結受注高に計上される(売上ではなく先行指標)
③ 設計・施工計画詳細設計・施工計画・外注・資材調達計画・許認可申請未成工事支出金が積み上がり始める
④ 施工(着工〜竣工前)仮設→基礎→躯体→仕上げ→設備→検査の繰り返し未成工事支出金が増加、前受金(未成工事受入金)の精算が進む
⑤ 完成・引き渡し完成検査→補修→書類作成→引き渡し完成工事高(売上)が計上される
⑥ アフター(瑕疵担保)施工不具合への無償対応(通常1〜10年)完成工事補償引当金を計上

フェーズ①〜②:営業・積算から受注まで

公共工事と民間工事の受注の違い

公共工事は原則として入札制度によって受注者が決まります。国・地方公共団体・独立行政法人などが設計図・仕様書を公告し、入札参加資格を持つ建設会社が応札します。価格・技術提案などを評価して落札者が決定されます(→ 詳細は「公共工事と民間工事の違い」参照)。

民間工事は、特命(指名)方式または競争見積方式が多く用いられます。発注者が事前に特定のゼネコンに設計・施工を依頼する特命(随意契約)が大型案件では一般的です。

積算の仕組み

見積もりを提出するためにはまず積算(工事費の積み上げ計算)が必要です。積算では、設計図に基づいて材料・労務・仮設・外注費・諸経費を一つひとつ積み上げて工事原価の見込みを計算し、そこに利益を加えて請負金額を決定します。

この時点での見積もり精度が後の採算を大きく左右します。特に公共工事では落札後の価格変更が原則できないため、積算ミスや資材単価の読み誤りが直接損失につながります。

受注高として計上されるタイミング

工事請負契約が締結された時点で、ゼネコンの受注高として計上されます。受注高は売上(完成工事高)ではなく、将来の売上の先行指標です。受注高が積み上がった分が受注残(未完成の受注)となります。

フェーズ③:設計・施工計画

契約後、工事の具体的な施工計画を立てます。このフェーズで実施される主な内容は次のとおりです。

  • 実施設計・施工図の作成:設計子会社・協力設計事務所と連携して施工に必要な詳細図面を作成する
  • 施工計画書の作成:工程・工法・安全対策・品質管理方法を文書化する
  • 資材・外注の発注:鉄骨・コンクリート・設備機器などを先行発注する。資材価格の変動リスクはこの時点で実質的に確定する
  • 許認可の取得:建築確認申請・道路使用許可・電気・ガス・水道の供給申請などを行う

この段階から外注費・資材費が発生し始め、貸借対照表の「未成工事支出金」が積み上がり始めます。まだ工事は完成していないため売上にはなりません。

フェーズ④:施工(着工から竣工前まで)

建築工事の場合、施工は大きく次の段階で進みます。土木工事ではこれとは異なる工程になりますが、「段階的に工事が積み上がる」という構造は共通しています。

  1. 仮設工事:足場・仮囲い・現場事務所の設置。工事全体を支える一時的設備の構築
  2. 地業・基礎工事:杭打ち・掘削・基礎コンクリートの打設。建物を地盤に固定する根拠となる工事
  3. 躯体工事:柱・梁・床スラブ・壁のRC(鉄筋コンクリート)や鉄骨の建て方。建物の骨格を作る工程
  4. 外装工事:外壁・屋根の施工。防水・断熱も含む
  5. 設備工事:電気・給排水・空調・消防設備の設置。専門工事業者が並行して施工
  6. 内装・仕上げ工事:床・壁・天井の仕上げ材の施工
  7. 検査:各工程での自主検査・行政(建築確認)の中間検査・完了検査

この期間中、外注費・労務費・材料費が継続的に発生します。受注時に発注者から受け取った着手金・中間払いは未成工事受入金(負債)として管理され、工事の完成に合わせて売上に振り替えられます。

フェーズ⑤:完成・引き渡し——売上が立つ瞬間

工事の完成後、発注者・設計監理者・ゼネコンが立ち会って「竣工検査(完成確認)」を行います。不具合(手直し箇所)が発見された場合は補修対応を行い、最終的に問題がなくなった段階で引き渡しとなります。

引き渡しが完了した時点でゼネコンの「完成工事高(売上)」として計上されます。これを「工事完成基準」と呼びます。

工事完成基準とは、売上(収益)を計上するタイミングを「工事が完成し目的物を発注者へ引き渡した時点」とする基準です。受注した時点でも、施工中でもなく、引き渡した時点で初めて売上として認識されます(出所:国税庁「法人税基本通達 2-1-1」)。

引き渡し時に授受される主な書類・手続きは次のとおりです。

  • 竣工図(実際に施工した図面のまとめ)
  • 設備機器・建材の保証書・取扱説明書
  • 鍵(マスターキー・スペアキー)の引き渡し
  • 工事費の最終精算・残金の支払い
  • 施工検査記録・品質管理記録の提出

フェーズ⑥:アフター(瑕疵担保責任)

引き渡し後もゼネコンには一定期間の瑕疵担保責任があります。住宅では建物の主要構造部・雨水の侵入防止部分について、引き渡しから10年間の保証が建設業法・品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)で義務付けられています(出所:国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律の概要」)。

大型の商業施設・オフィスビル等でも契約上の保証期間が設定されることが一般的です。ゼネコンはこのアフター対応コストの見込みを「完成工事補償引当金」として引き渡し時に計上します。

工期と業績の関係:投資家が理解すべきメカニズム

なぜ受注残が将来売上の先行指標になるのか

受注残(バックログ)は「まだ完成・引き渡しをしていない受注案件の請負金額合計」です。ゼネコンの受注残は今後数年の完成工事高(売上)の候補です。受注残が積み上がるほど将来の売上が可視化されますが、引き渡しが完了するまでは売上に計上されない点を理解しておく必要があります。

工期ずれが採算を悪化させる構造

建設工事は多くの作業が気象・地盤・近隣事情・資材調達・人手不足などの外部要因に連動します。工期が延びると次のような連鎖が起きます。

  • 現場の固定費(現場事務所・重機・管理費)が延びた分だけ増加する
  • 資材・労務費が当初積算より高騰した場合に追加費用が発生する
  • 引き渡しが翌決算期にずれ込むと、その年度の売上・利益が計画を下回る

採算確定のタイミングと工事損失引当金

工事の進行中に採算が当初の想定より大幅に悪化することが判明した場合、その時点で見込み損失を「工事損失引当金」として計上します(工事が完成する前でも費用として認識)。決算期中に突然多額の引当金が計上されるのは、こうした採算悪化案件の発覚によるものです。

投資家が確認するポイント

  • 受注残の規模と質:受注残が数年分の売上相当を確保しているか。また受注残の中に採算の厳しい案件が混在していないかを補足説明資料等で確認します。
  • 完成工事高と受注高の比較:受注高>完成工事高なら受注残は積み上がり(今後の売上余力が増える)。受注高<完成工事高が続くと受注残が目減りし将来の売上が縮小します。
  • 竣工予定の分布:決算期末に竣工・引き渡しが集中する年は完成工事高が跳ね上がる。逆に大型工事の工期延伸は売上のずれ込みを引き起こす。補足資料の「大型工事の竣工予定」を確認します。
  • 工事損失引当金の動向:急増している場合、採算悪化案件が複数発生している可能性がある。引当金の残高水準・繰入額の増減を注視します。
  • 仕掛比率(未成工事支出金):受注残に対して未成工事支出金が急増している場合、工事が着工ラッシュの状態にある。今後の完成・引き渡しに伴う売上計上が加速する先行サインになりうる。

実際のIR資料・統計で見ると

大手ゼネコン各社の決算補足説明資料には、大型工事の竣工予定・工期延伸の有無・工事損失引当金の残高推移などが開示されています。また受注残の内訳として「1年以内に完成予定」「1〜3年後に完成予定」などの期間区分が示される場合があります。

鹿島建設の決算補足説明資料におけるセグメント別の受注残の開示状況を下図に示します。

鹿島建設 受注残・工事完成予定の開示資料
出所:鹿島建設「2025年3月期 決算補足説明資料」(2025年5月14日)。事業セグメント別の売上高・利益・従業員数と、期末の連結・単体受注残高が掲載されている。受注残は将来の売上計上の先行指標として投資家が注目する数字で、引き渡しが完了した案件から順次完成工事高へ振り替えられる。

国土交通省が毎月公表する「建設工事受注動態統計調査」では、全国の建設業者の受注額の動向が確認できます(出所:国土交通省「建設工事受注動態統計調査」)。業界全体の受注状況と各社の受注高を対比して読むことで、各社のシェア変動の動向も把握しやすくなります。

まとめ

フェーズ業績への影響投資家の着目点
受注・契約受注高に計上(売上ではない)受注高・受注残の積み上がりが将来売上の先行指標
設計・施工計画未成工事支出金が積み上がる資材価格変動リスクがこの段階で実質的に確定する
施工中未成工事支出金増・前受金の精算進行工期ずれ・採算悪化は工事損失引当金のサイン
完成・引き渡し売上(完成工事高)が計上される竣工時期が決算期末をまたぐと売上がずれ込む
アフター完成工事補償引当金を計上大型案件の補修費増加は利益圧迫要因になりうる