建設業は深刻な人手不足に直面しています。技術者・技能者の高齢化・若年入職者の減少・2024年問題(時間外労働の上限規制)による就業環境の変化が重なり、業界全体の担い手不足が中長期的な構造問題として広く認識されています(出所:国土交通省「建設業における働き方改革」)。

この記事では、建設業の人手不足がなぜ起きているのか・どのような影響が出るのか・外注費・労務費の上昇と採算性との関係・投資家が決算で確認すべきポイントを整理します。

なぜ建設業は人手不足が深刻なのか

就業者の高齢化と若年入職者の少なさ

国土交通省「建設業における働き方改革」によると、建設業の就業者は全産業と比べて高齢者(55歳以上)の比率が高く、若年者(29歳以下)の比率が低い状況です(出所:国土交通省「建設産業の現状と課題」)。

【建設業就業者の年齢構成(2024年)】
55歳以上の比率:建設業 36.7%(全産業平均 32.4%)
29歳以下の比率:建設業 11.7%(全産業平均 16.9%)
出所:国土交通省「建設産業の現状と課題」(令和8年4月)

全産業の就業者数における建設業の比率を下図に示します。

2024年 産業別就業者数 建設業477万人(7.0%)
出所:日本建設業連合会「建設業ハンドブック」(2025年)産業別就業者数(例示)。2024年の全産業就業者6,781万人のうち建設業は477万人(7.0%)。製造業1,046万人(15.4%)に次ぐ規模だが、高齢化と若年入職者不足が深刻な業種である。出所:総務省「労働力調査」。

今後10〜20年で大量の熟練技能者が退職期を迎える一方、同規模の若年層への技能継承が追いついていない状況です。

長時間労働・労働環境のイメージ

建設業は他産業と比べて年間の労働時間が長く、週休2日が取りにくい業種として知られてきました。この労働環境のイメージが若年者の入職を妨げる要因の一つとなっており、2024年問題への対応(時間外労働の上限規制)も担い手不足を加速する可能性があります。

技術者と技能者の違い

建設業の人材不足は「技術者」と「技能者」の両面で生じています。

  • 技術者:施工管理技士などの国家資格を持ち、現場を管理する立場。建設業法上、一定規模以上の工事には主任技術者・監理技術者の配置が義務付けられており、不足すると受注できる工事数の上限に制約が生じます。
  • 技能者:実際の施工を行う職人(とび・大工・鉄筋工・型枠工等)。熟練技能者の高齢化・退職が進むと施工品質の維持が難しくなります。

人手不足が業績に与える影響

外注費・労務費の上昇

技能者・技術者の不足が続くと、サブコン(専門工事会社)への外注費・職人の労務費が市場全体で上昇します。ゼネコンの完成工事原価の中で外注費・労務費は大きな割合を占めており、これらの上昇は完成工事総利益率を圧迫します。

ゼネコン各社が公表する決算補足説明資料や決算短信では、「完成工事原価の内訳」として外注費・労務費・材料費・経費が開示されているケースがあり、外注費の増加傾向を確認できます。

工期の延長と工事損失リスク

職人・技術者の確保が困難になると、施工計画どおりに工事が進まず工期が延長するリスクがあります。工期延長は追加コストの発生要因となり、当初の原価見積を超えた場合は工事損失引当金の計上につながる可能性があります。

受注能力の制約

配置可能な技術者(主任技術者・監理技術者)の数が受注できる工事数の上限を規定します。技術者を確保できなければ、たとえ受注需要があっても案件を取り切れません。

このため、技術者の採用・育成・資格取得支援が受注能力の拡張に直結します。

建設業界の対応策

  • 処遇改善:賃金水準の引き上げ・週休2日の実現による入職促進(国交省「建設キャリアアップシステム(CCUS)」を活用した賃金水準の見える化)
  • 建設DX・省力化:BIM/CIM(建設情報モデリング)・プレハブ工法・施工ロボット等による省力化で、少人数でも施工できる体制の構築
  • 外国人材の活用:技能実習制度・特定技能制度による外国人技能者の受け入れ拡大

実際の短信・IR資料で見ると

有価証券報告書の「事業等のリスク」欄には、「技術者・技能者の不足」が主要リスクとして記載されることが多く、各社の認識の強さを比較する参照になります。

決算短信・IR説明会資料では、完成工事原価の内訳(労務費・外注費の比率推移)が確認できる場合があります。外注費比率が上昇している場合は、労働力不足による外注依存の高まりを示すシグナルとして読めます。

また、国土交通省「建設労働需給調査」では、職種別の労働需給(不足・充足)の状況が月次で公表されており、業界全体の需給ひっ迫度を確認する参照資料になります(出所:国土交通省「建設労働需給調査」)。

まとめ

項目 内容
主な原因 就業者の高齢化・若年入職者の少なさ・長時間労働イメージ・2024年問題
技術者不足の影響 受注できる工事数の上限に制約(主任技術者・監理技術者の配置義務)
技能者不足の影響 外注費・労務費の上昇 → 完成工事総利益率を圧迫
工期リスク 人手不足による工期延長 → 工事損失引当金の発生リスク
対応策 処遇改善(CCUS活用)・建設DX・外国人材受け入れ
投資家の確認箇所 有価証券報告書「事業等のリスク」/ 完成工事原価の外注費比率 / 国交省「建設労働需給調査」