建設業の決算を読む上で「売上(完成工事高)がいつ計上されるか」は非常に重要です。一般の製造業や小売業と異なり、建設工事は数か月〜数年かけて完成するため、その途中でどのように収益を認識するかが業績の見え方を大きく変えます。
この記事では、工事の収益認識方法(工事進行基準・工事完成基準)の仕組みと違い、2021年の新収益認識基準への移行の影響、四半期業績との関係、投資家が押さえるべきポイントを整理します。
それでは詳しく見ていきましょう。
- 工事完成基準と工事進行基準の仕組みと業績の見え方の違い
- 2021年の新収益認識基準(企業会計基準第29号)への移行の影響
- 未成工事支出金・未成工事受入金と収益認識の関係
- 四半期業績の完成工事高の変動を決算で読み解くポイント
収益認識とは何か
収益認識とは、企業がいつの時点で「売上を立てる(計上する)」かを決めるルールです。建設工事のように長期間かかる取引では、「工事が完成したときに全額計上」するか、「工事の進捗に合わせて分割計上」するかで、各年度・各四半期の業績が大きく変わります。
工事完成基準(旧・完成基準)
工事完成基準とは、工事が完成して発注者に引き渡した時点で初めて完成工事高(売上)を計上するルールです。
- 工事中は売上・利益は計上しない
- 完成・引き渡し時に工事金額の全額が一括計上される
- 工期が長い工事は、完成する年度にだけ業績が集中する
完成基準の場合、工期が長い案件を多数抱えると完成タイミングに業績が大きく振れるため、単年度の業績だけを見ると実態の見えにくい決算になります。これが第4四半期(1〜3月)に完成工事高が集中する傾向と結びついています。
工事進行基準(進行基準)
工事進行基準とは、工事の進捗度合いに応じて売上・利益を期間配分して計上するルールです。
- 工事の進捗率(例:発生原価÷見積総原価)を算定し、その比率を請負金額に掛けて計上
- 工事中でも毎期・毎四半期に按分計上される
- 長期工事の業績が平準化され、期ごとの変動が抑えられる
進行基準では、採算の悪化(見積原価の増加)が明確になった時点で、その期の利益が下振れします。このため、大型工事の採算見直しが業績に即影響するという特徴があります。
2021年:新収益認識基準への移行
2021年4月(2022年3月期)から、「収益の認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号、ASBJ公表)が日本の上場企業に原則適用されました(出所:企業会計基準委員会(ASBJ)「収益の認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号))。
この基準では、「履行義務の充足」(顧客が便益を受け取る時点)に合わせて収益を認識することが原則とされ、建設工事については「一定期間にわたり充足される履行義務」として、工事期間中の進行基準適用が求められるケースが増えました。
【新収益認識基準と建設業の関係のポイント】
・「一時点で充足される」工事(短期・小規模等)→ 完成時点で一括計上
・「一定期間にわたり充足される」工事(長期工事等)→ 進行に応じて計上
・各社の会計方針(有価証券報告書「重要な会計方針」)で適用方法を確認できる
この基準変更により、以前は完成基準を採用していた一部のゼネコンが移行期に業績の見え方が変わった事例もあります。
未成工事支出金・未成工事受入金との関係
進行基準・完成基準に関わらず、工事中に発生したコストは未成工事支出金(B/S資産)に計上されます。それに、発注者から前払いで受け取った代金は未成工事受入金(B/S負債)に計上されます。
完成基準の工事は「未成工事支出金が大きく積み上がった後、完成時に一気に完成工事高・完成工事原価に振り替えられる」という構造を持つため、B/Sの未成工事支出金の増減が将来の完成工事高の先行指標になります。
実際のIR資料・短信で見ると
各社の有価証券報告書「重要な会計方針」欄には「収益の認識基準」として、どの工事にどの認識方法を適用しているかが記載されています(出所:各社有価証券報告書「重要な会計方針」)。
決算短信の四半期業績で完成工事高が大きくブレる場合、それが「大型工事の完成集中」(完成基準の影響)なのか「採算見直しによる進行度の変化」(進行基準の影響)なのかを区別して読むことが重要です。補足説明資料の「主要工事の完成・着工状況」欄と合わせて確認することで、業績変動の要因が把握しやすくなります。
工事損失引当金とは|計上タイミング・業績への影響・短信での確認方法【収益認識で投資家が確認するポイント】
・有価証券報告書「重要な会計方針」の収益認識方法
・B/Sの未成工事支出金の増減(完成基準工事の先行指標)
・四半期業績の完成工事高の変動と完成工事一覧の照合
・採算悪化工事の進行基準への影響(工事損失引当金との関係)
まとめ
| 項目 | 工事完成基準 | 工事進行基準 |
|---|---|---|
| 計上タイミング | 完成・引き渡し時に一括 | 工事進捗に応じて期間配分 |
| 業績の平準化 | 完成年度に集中(ブレ大) | 毎期に分散(平準化) |
| 採算悪化の影響 | 完成時に一括反映 | 判明時点に即影響 |
| 確認箇所 | 有報「重要な会計方針」・未成工事支出金 | 有報「重要な会計方針」・工事損失引当金 |
収益認識の仕組みを理解することで、ゼネコンの四半期業績の変動が「実態の改善・悪化」なのか「工事の完成タイミングのずれ」なのかを区別して読めるようになります。