2026年3月期、大手ゼネコン4社の純利益合計が8年ぶりの最高水準を更新した。大手・準大手ゼネコンの大半が営業増益となり、過去最高益を更新した企業も相次いだ(出所:日本経済新聞「ゼネコン4社合計、8年ぶり最高益」2026年4月、建設通信新聞)。

「建設コストが上がっているのになぜ利益が出るのか」「この好調はいつまで続くのか」——こうした問いに答えるには、最高益が「単なる景気好転」ではなく、業界の構造変化によって引き起こされていることを理解する必要がある。個別銘柄の評価ではなく、建設業のビジネス構造を理解するための整理として読んでほしい。

それでは詳しく見ていきましょう。

この記事でわかること
  • ゼネコンの最高益が単なる景気好転ではなく構造変化によるものであること
  • 選別受注の定着・価格転嫁の進展・受注残の高採算化という3つの変化
  • 建設コストが上がるなかで利益率が改善した仕組み
  • この好調の持続性を見るうえで確認したい論点

3つの構造変化が重なった

今回の最高益は、以下の3つの変化が同時に実現した結果です。

変化内容利益への効果
① 選別受注の定着 採算の合わない案件を断り、高採算案件に絞って受注 受注量は抑えても完成工事総利益率(粗利率)が上昇
② 価格転嫁の進展 資材費・労務費の上昇分を工事代金に転嫁 コスト増を吸収できる受注契約に切り替わり採算が改善
③ 受注残の高採算化 低採算の旧受注残が消化され、高採算の新受注に置き換わった 完成工事として計上される工事の質が上がり、利益が表面化

この3つは独立した変化ではなく、相互に連動している。

① 選別受注の定着:「受注すれば赤字」からの脱却

2010年代の建設業界は、人手不足と資材費高騰が重なりながらも、ゼネコン各社が受注競争を繰り広げていた。結果として、工事が進むにつれてコストが積み上がり、「受注すればするほど赤字になる」案件を抱えるケースが後を絶たなかった。

転換点は需給逼迫でした。建設需要が旺盛な中で施工できる技術者・技能者が不足し、ゼネコン側が発注者を選べる立場に変わった。採算が合わない案件はそもそも受けないという選別受注が、業界全体の標準的な行動として定着したのが2020年代に入ってからだ(→ 詳細は「選別受注とは何か」参照)。

選別受注の効果は完成工事総利益率(粗利率)の改善として現れる。粗利率が低い案件を受けなければ、売上高が伸び悩んでも利益は積み上がる。スーパーゼネコン各社の粗利率は2020年代前半を底に回復傾向に転じていて、この動きが最高益の土台を作った(→「完成工事総利益率とは」参照)。

鹿島建設の受注高の実績と計画(土木・建築・建設事業計)を下図に示します。

鹿島建設 2025年3月期 受注高の実績と予想(土木・建築・建設事業計)(単体)
出所:鹿島建設株式会社「2025年3月期 決算補足説明資料」(2025年5月14日)p.3 受注高の実績と予想(単体)。土木・建築・建設事業計の2023年度実績・2024年度実績・2025年度予想が一覧できる。選別受注の定着により建築受注高が抑制傾向にある中(2024年度:1兆3,346億円)、土木受注が国内公共工事を中心に推移していることが読み取れる。

② 価格転嫁の進展:「正当なコストは正当に請求する」

建設業界ではかつて、資材費や労務費が上昇しても発注者への転嫁が難しかった。特に民間工事では、契約時に総額が固定されるケースが多く、その後のコスト増はゼネコン側が吸収するのが慣行でした。

2020年代に入って資材費が急騰し、この慣行が立ちゆかなくなった。発注者側もインフレを前提として発注しなければ施工してもらえない現実に直面し、スライド条項(物価上昇分を工事代金に反映させる条項)の適用や、受注時の価格設定での値上げ交渉が進んだ。

公共工事では国土交通省が推進する「適正な価格転嫁」の取り組みが後押しし、民間工事でも発注者の理解が得られやすくなった。「正当なコストは正当に請求する」という当たり前の商慣行が、ようやく建設業でも機能し始めた局面です。

③ 受注残の高採算化:利益は「タイムラグ」を伴って現れる

建設業の利益が特殊なのは、受注した時点ではなく、工事が完成した時点で売上・利益が計上されるという特性だ(工事進行基準でも同様のラグが生じる)。

これが意味するのは、「今の受注採算が良くなっても、利益に反映されるのは数年後」ということです。2020〜2022年頃に低採算で受注した工事が完成し、利益を押し下げていた時期があった。でも、2022〜2024年頃に高採算で受注した工事が完成するタイミングになったのが2025〜2026年です。

受注残(繰越高)の「質の変化」が利益として表面化するには数年かかる。今の最高益は、ここ数年間の選別受注・価格転嫁の積み重ねが形になったものでもある(→ 受注残の構造については「受注高と受注残の違い」参照)。

なぜ「今まで」最高益でなかったのか

以上の3つの変化は急に起きたわけではありません。それでも最高益の実現が2026年3月期になったのには理由があります。

  • 2020〜2022年:選別受注・価格転嫁は進み始めていたが、旧来の低採算受注残が大量に残っていた。完成するたびに利益を押し下げる工事が続いた。
  • 2022〜2023年:資材費の急騰が想定を超え、一部の工事で工事損失引当金の計上が相次いだ。転嫁が間に合わなかったケースが利益を圧迫した。
  • 2024〜2025年:低採算受注残がほぼ消化され、高採算の新受注残が主体になった。価格転嫁も本格定着。この2つのタイミングが重なり、利益が一気に表面化した。

つまり最高益は「突然の好景気」ではなく、数年にわたる構造改善の蓄積が特定のタイミングで一致した結果と見るべきです。

この好決算はいつまで続くのか:見ておくべきリスク

構造変化が定着しているなら、好決算は持続するはずだ——そう考えたいところだが、現状では以下のリスクを並行して確認しておく必要があります。

民間発注の慎重化

金利上昇局面では不動産デベロッパーなど民間発注者の投資判断が慎重になりやすい(→「金利が上がると建設株は下がるのか」参照)。高採算の民間案件の受注機会が減ると、受注残の質が維持できなくなるリスクがあります。

人手不足による受注機会の逸失

施工できる技術者・技能者が不足しているため、受注したくても受けられない案件が出てくる。これは採算改善には寄与するが、売上成長の上限を作る。

大型案件の工事損失リスク

半導体工場・大型再開発など超大型案件は、仕様変更・資材調達の難航・工期延長が発生すると、想定外の工事損失引当金の計上につながるリスクがあります。

資材・労務費のさらなる上昇

インフレが継続する中で価格転嫁の余地を上回るコスト増が起きれば、採算が再び悪化するシナリオもあります。

投資家が確認するポイント

  • 完成工事総利益率(粗利率)の推移:選別受注・価格転嫁の効果が出ているかどうかの最重要指標。単体・連結の両方で確認します。
  • 受注時採算の開示:一部のゼネコンは決算補足説明資料で「受注時採算(当期受注ベースの想定粗利率)」を開示している。これが現在の完成工事総利益率より高ければ、今後も利益水準が維持・改善される可能性が高い。
  • 受注残の規模と構成:受注残(繰越高)の絶対額と、その中の公共/民間構成・土木/建築比率を確認する。高採算の案件が積み上がっているほど、将来の利益が見えやすくなります。
  • 工事損失引当金の計上状況:決算短信の「特別損失」「引当金の変動」に工事損失引当金の計上があれば、特定の大型工事で採算が悪化しているサインとして確認が必要だ(→「工事損失引当金とは」参照)。
  • セグメント別の利益率:建築・土木・海外・開発で粗利率が異なる。どのセグメントが改善をけん引しているかを把握すると、利益の持続性を評価しやすくなる(→「ゼネコンのセグメント別業績の読み方」参照)。

実際のIR資料・統計で見ると

選別受注と価格転嫁の効果は、決算補足説明資料の「完成工事総利益率の推移」グラフに最もシンプルに現れる。多くのゼネコンがこの推移を棒グラフまたは折れ線グラフで開示していて、2020年代前半を底に右肩上がりで回復している会社では、構造変化が業績に着実に反映されていることが確認できます。

それに、受注残の採算状況を把握する手がかりとして、決算説明会の質疑応答や統合報告書に「受注時採算の改善傾向」「低採算受注残の消化進捗」に関する経営コメントが出ることがある。この種の定性的な記述の変化は、利益の持続性を判断するうえで重要な情報になります。

マクロ統計としては、国土交通省の「建設工事施工統計調査」や「建設工事受注動態統計調査」で業界全体の受注・施工動向を把握することができる(出所:国土交通省「建設工事受注動態統計調査」各月版)。これらを各社IRと組み合わせることで、業界環境と個社の状況の乖離を読みやすくなります。

鹿島建設の完成工事総利益率と利益指標の10年間推移を下図に示します。

鹿島建設 主要経営指標の推移(その2)2015〜2025年度 受注高・完成工事総利益率・利益(単体)
出所:鹿島建設株式会社「2025年3月期 決算補足説明資料」(2025年5月14日)p.22。受注高・完成工事総利益率・土木/建築別利益率・経常利益率・自己資本比率の2015〜2025年度の10年推移が示されている。2020年代前半を底に完成工事総利益率が急回復し、選別受注・価格転嫁が業績に反映されてきた構造変化の全体像が一目で把握できる。

まとめ

論点ポイント
最高益の背景選別受注・価格転嫁・受注残高採算化の3つが2025〜2026年に同時に結実した
構造変化の本質「受注量 > 利益」から「採算 > 受注量」への業界全体のマインドセット転換
タイムラグ効果受注採算の改善が利益に出るまで数年かかる。今の最高益は数年前の改善の蓄積
持続性の確認方法完成工事総利益率の推移・受注時採算の開示・受注残の規模と質で判断する
主なリスク民間発注の慎重化、人手不足による受注制約、大型案件の工事損失、資材費の更なる上昇